家族のメンタル不調に伴う金銭管理の課題:家族が取るべき具体的な対応と成年後見制度などの検討
家族のメンタル不調は、長期化するにつれて、本人の日常生活に様々な影響を及ぼすことがあります。その一つに、金銭管理が難しくなるという問題が挙げられます。これまで問題なく行えていた預金の管理、公共料金や税金の支払い、あるいは重要な契約に関する判断などが、メンタル不調の影響で困難になることがあるのです。
このような状況は、ご家族にとって新たな、そして非常に現実的な「困りごと」となります。本人の金銭的なトラブルを防ぎたい、でもどのようにサポートすれば良いか分からない、将来のお金に関することが心配、といった不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、家族のメンタル不調に伴い本人の金銭管理が難しくなった場合に、ご家族ができる具体的な対応と、将来を見据えた法的な備え、そして専門家をどのように活用すれば良いのかについて、実践的なヒントを提供します。
家族が金銭管理に課題を抱える背景とサイン
メンタル不調が金銭管理に影響を与える背景には、以下のような要因が考えられます。
- 判断能力の低下: 思考力や集中力の低下により、収入と支出のバランスを把握したり、支払い期日を管理したりすることが難しくなります。
- 意欲・気力の低下: 面倒に感じてしまい、手続きを放置したり、必要な支払いを行わなかったりすることがあります。
- 衝動性の亢進: 病状によっては、無計画な買い物や浪費をしてしまうことがあります。
- 被害妄想や不信感: お金に関することについて、家族や周囲の人を信用できなくなり、適切な管理ができなくなることがあります。
これらの変化は徐々に現れることが多く、以下のようなサインが見られたら注意が必要です。
- 請求書の開封や支払いが滞りがちになる
- 自宅に郵便物が溜まっている
- ATMからの不必要な頻繁な引き出しや入金
- 高額な商品の衝動的な購入
- お金に関する話や相談を避けるようになる
- 通帳や印鑑、カードなどの重要なものをなくす、あるいはどこに置いたか分からなくなる
このようなサインに気づいた場合、まずは穏やかに本人の状況を確認することが大切です。
家族ができる一時的なサポート
本人が金銭管理に課題を抱え始めた初期の段階や、比較的軽度な場合には、ご家族が一時的にサポートすることで対応できることがあります。
- 一緒に確認する: 郵便物や請求書を一緒に確認し、必要な支払いがないかチェックリストを作るなど、管理を可視化するお手伝いをします。
- 支払い期日の声かけ: 公共料金や家賃など、決まった支払いの期日が近づいたら、優しく声かけをします。
- 手続きの補助: オンラインバンキングやキャッシュレス決済など、本人が慣れていない方法について、セキュリティに配慮しながら一緒に操作を練習する、あるいは同意を得て代行するといったサポートも検討できます。ただし、本人の同意なしに勝手に手続きを行うことは避けるべきです。
- 家計の見える化: 簡易な家計簿アプリの活用や、毎月の収入と主な支出項目をリスト化するなど、本人が自分のお金の流れを把握しやすくする工夫を提案します。
これらのサポートを行う際は、本人の自尊心を傷つけないよう配慮し、あくまで「一緒に」行う、あるいは「お手伝いする」という姿勢が重要です。本人ができる部分は本人に行ってもらい、サポートは必要最低限にとどめることも大切です。
将来を見据えた対応と法的な選択肢
一時的なサポートだけでは対応が難しくなった場合や、将来にわたって本人の財産を守り、必要な医療や介護、生活費の管理を行う必要がある場合には、より正式な方法を検討する必要があります。ここで選択肢となるのが、判断能力が不十分な方を保護するための「成年後見制度」です。
成年後見制度には、本人の判断能力があるうちに利用を始める「任意後見制度」と、既に判断能力が不十分になっている場合に利用する「法定後見制度」があります。
1. 任意後見制度
- 概要: 本人が十分な判断能力を持っているうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に、財産管理や生活に関する事務(医療・介護契約、施設入所契約など)を代わりにしてもらう人(任意後見人)と、どのような事務を任せるかについて、公正証書で契約(任意後見契約)を結んでおく制度です。
- メリット: 本人が自分の意思で任意後見人となる人や、任せる事務の内容を決めることができます。信頼できる家族や知人、あるいは専門家(弁護士、司法書士など)を任意後見人に選ぶことが可能です。
- デメリット: 本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から制度が開始されます。また、契約内容以外の事務は任せられません。
- 検討のタイミング: 本人が自身の将来について、ある程度考え、意思表示ができる段階で検討を開始します。
2. 法定後見制度
- 概要: 本人の判断能力が既に不十分になっている場合に、家庭裁判所が後見人、保佐人、補助人のいずれか(本人の判断能力の程度によります)を選任し、本人の財産管理や身上監護(生活や医療・介護などに関する法律行為)を行う制度です。後見人は本人の法律行為を包括的に代理する強い権限を持ちます。
- メリット: 本人の判断能力が既に不十分な状態でも利用を開始できます。家庭裁判所が選任するため、後見人等の適正性が一定程度保たれます。
- デメリット: 誰が後見人等になるかは、家庭裁判所が本人の状況や親族の意向などを考慮して決定するため、必ずしも家族がなれるとは限りません(専門家が選任されることもあります)。一度開始すると、原則として本人が亡くなるまで続きます。家庭裁判所への報告義務などがあり、手続きに時間や手間がかかります。
- 検討のタイミング: 本人の金銭管理能力が著しく低下し、財産上の不利益を被る可能性が高いと判断される場合に検討を開始します。
専門家への相談・活用ヒント
成年後見制度の利用や、それに至らないまでも複雑な金銭管理、税金、相続などに関する問題は、専門知識が必要です。ご家族だけで抱え込まず、専門家への相談を検討することをお勧めします。
- 弁護士・司法書士: 成年後見制度に関する手続きの代行やアドバイス、遺産分割、不動産登記など、法律的な問題について相談できます。特に法定後見制度の申立てを検討する際には、専門家への依頼が一般的です。
- 精神保健福祉士: メンタル不調のある方の生活全般に関する相談に乗ってくれます。金銭管理の課題についても、福祉的な視点から利用できる制度やサービスについてアドバイスを得られる場合があります。かかりつけの精神科医療機関や地域の精神保健福祉センターに配置されています。
- 市町村の相談窓口: 地域の社会福祉協議会や役所の福祉課には、成年後見制度に関する相談窓口が設けられている場合があります。制度の概要について知りたい場合に、まずは地域の窓口に問い合わせてみることも有効です。
- ファイナンシャル・プランナー(FP): 家計全体の収支バランスの分析、資産形成や運用、保険、年金など、お金全般に関するアドバイスを提供できます。ただし、病状による金銭管理の困難さに対する直接的なサポートというよりは、家計全体の見直しや将来の資金計画といった点で活用が考えられます。
専門家への相談は、有料の場合が多いですが、初回無料相談を実施している事務所や、自治体の相談窓口を利用することで、費用を抑えることも可能です。相談する際は、本人の状況、具体的な困りごと、どのような解決を望むのかなどを整理しておくと、スムーズな相談につながります。
家族自身の負担軽減のために
家族の金銭管理をサポートすることは、非常に大きな精神的・時間的な負担を伴います。この負担を一人で抱え込まず、ご自身の心身の健康も大切にしてください。
- 情報収集: 本記事で解説したような制度やサポートについて、正確な情報を得ることが、漠然とした不安の軽減につながります。
- 相談相手の確保: 信頼できる他の家族、友人、あるいは地域の相談窓口や家族会などに、率直な気持ちを話せる相手を持つことが重要です。
- 休息: 金銭管理だけでなく、家族のケア全般から一時的に離れる時間を作ることも必要です。ショートステイなどのサービス利用も検討できます。
まとめ
家族のメンタル不調に伴い金銭管理が難しくなることは、ご家族にとって非常に現実的で対応に迷う課題です。まずは本人の状況を優しく把握し、一時的なサポートから始めてみてください。
しかし、課題が複雑化したり、将来への不安が大きい場合は、成年後見制度などの法的な選択肢を検討し、弁護士、司法書士、精神保健福祉士などの専門家へ相談することが有効です。専門家は、状況に応じた適切なアドバイスや手続きのサポートを提供してくれます。
この問題は一人で解決しようとせず、外部のリソースを積極的に活用することが大切です。ご自身の負担も考慮しながら、焦らず、一歩ずつ対応を進めていくことを願っております。