家族を支える知恵袋

家族のメンタル不調:本人が治療や支援を拒む状況で家族が取るべきステップと外部の助け

Tags: メンタル不調, 治療拒否, 受診拒否, 家族支援, 相談窓口, 外部リソース

はじめに

ご家族のメンタル不調が長期化し、回復を願う中で、最も困難な状況の一つに「本人が治療や専門家による支援を頑なに拒否する」という壁があります。ご本人に病識がなかったり、過去の経験から医療や支援に対して不信感を抱いていたりする場合、家族がいくら働きかけても受け入れてもらえず、無力感や疲労感を強く感じていらっしゃる方もおられるかもしれません。

この状況は非常に難しく、正解が一つではありません。しかし、ご本人の意思を尊重しつつ、状況を少しでも良い方向へ進めるための関わり方や、家族だけで抱え込まずに活用できる外部のリソースは存在します。

この記事では、ご家族がメンタル不調の治療や支援を拒否している状況で、家族がどのように考え、どのようなステップで対応を進めていくことができるのか、そしてどのような外部の助けを借りることができるのかについて、具体的なヒントを提供いたします。

治療や支援を拒否する背景を理解する

ご家族が治療や支援を拒むのには、様々な理由が考えられます。これらの背景を理解しようと努めることが、建設的な関わりの第一歩となります。

これらの背景は単独ではなく、複雑に絡み合っていることがほとんどです。家族としては、まずはご本人の言葉や態度から、その背景にある感情や考えを推測し、理解しようと努める姿勢が大切です。

強制や一方的な説得が逆効果になる理由

ご本人の状態を心配するあまり、「病院に行きなさい」「これは病気だから治療が必要だ」と強く勧めたり、感情的に訴えかけたりしたくなるかもしれません。しかし、多くの場合、このような強制や一方的な説得は逆効果となり得ます。

メンタル不調を抱えている方は、思考力が低下していたり、感情のコントロールが難しくなっていたりすることがあります。また、強い不安や警戒心を抱いている場合も少なくありません。そのような状況で一方的に説得されると、さらに心を閉ざしたり、反発したりすることが考えられます。結果として、ご本人との信頼関係が損なわれ、かえって支援から遠ざけてしまうことになりかねません。

重要なのは、ご本人の意思を最大限に尊重しつつ、焦らず、少しずつ信頼関係を築きながら、ご本人自身が「変わりたい」「少し楽になりたい」と思えるような関わり方を模索することです。

具体的な関わり方のステップとヒント

治療や支援を拒否するご家族への関わりは、粘り強く、段階的に進めることが重要です。以下に具体的なステップとヒントを示します。

  1. まずは傾聴と共感に徹する(非難しない)

    • ご本人の話を、たとえ納得できない内容であっても、まずは批判や否定をせずに「聞く」姿勢を持ちます。
    • ご本人の感情に寄り添い、「つらいね」「しんどいね」といった共感の言葉を伝えます。無理に解決策を提示する必要はありません。
    • 過去の失敗やご本人の状態について、決して非難したり、責めたりしないように注意します。
  2. 焦らず、小さな変化を促す

    • すぐに「病院に行く」という大きな目標を目指すのではなく、「少し散歩してみない?」「一緒にご飯を食べてみようか」など、ご本人にとって負担の少ない、日常生活の小さな変化を促すことから始めます。
    • ご本人が少しでも前向きな行動をとったり、変化を見せたりしたときは、そのことを具体的に褒めたり、認めたりします。
  3. 「治療」ではなく「困りごと」の解決という視点で提案する

    • 「病気を治そう」という言葉に抵抗がある場合は、「眠れないのがつらそうだね、どうしたら眠れるか相談してみない?」「イライラして自分が一番しんどいんじゃないかな、少し楽になる方法を探してみない?」のように、ご本人が感じている具体的な「困りごと」に焦点を当てて、その解決策として専門家の助けを提案してみます。
    • 身体的な不調(例: 眠れない、食欲がない、だるい)がある場合は、まず内科などのかかりつけ医に相談してみることを提案するのも一つの方法です。そこから精神科や心療内科に繋がるケースもあります。
  4. 選択肢を提示する(医療機関以外の相談窓口など)

    • 「精神科」という場所への抵抗が強い場合は、精神保健福祉センター、保健所、地域の相談支援事業所など、医療機関ではない相談窓口の存在を伝えてみます。匿名で電話相談できる窓口(よりそいホットラインなど)から勧めてみるのも良いかもしれません。
    • ご本人に合いそうな専門家(医師、公認心理師、精神保健福祉士など)のタイプや、医療機関・相談機関の雰囲気を調べて情報提供することも有効です。
  5. 本人が同意しやすい「ハードルの低い一歩」を提案する

    • 「いきなり病院に行くのは抵抗があるなら、まずは電話で相談してみるだけでもいいんだよ」
    • 「家族だけで行くのが不安なら、私も一緒に相談に行こうか?」
    • 「自宅で専門家と話せる訪問支援もあるみたいだよ」
    • このように、ご本人にとって最も抵抗の少ない形での「最初の一歩」を具体的に提案し、選択肢を狭めないようにします。

家族自身が相談機関に繋がる

ご本人が治療や支援を拒否している状況では、ご家族自身が専門家や相談機関に繋がることが非常に重要です。これは決して「ご本人を無理やり受診させる方法」を教えてもらうためではなく、以下の目的のためです。

相談先としては、お住まいの地域の保健所精神保健福祉センター、あるいは相談支援事業所などがあります。これらの機関には精神保健福祉士などの専門職が配置されており、無料で相談に応じてもらえます。かかりつけの内科医に相談してみるのも良いでしょう。

専門家によるアウトリーチ支援や訪問支援の活用

ご本人が自宅から出られず、医療機関や相談機関への訪問が難しい場合、専門家が自宅を訪問して支援を行うアウトリーチ支援訪問看護、訪問診療の活用を検討できます。

これらのサービスは、ご本人が「病院には行きたくないけれど、家に来てもらうなら少し話を聞いてもいいかな」と感じる場合に有効な選択肢となり得ます。サービスの利用には手続きが必要なため、まずは前述の保健所や精神保健福祉センター、あるいはかかりつけ医(あれば)に相談してみてください。

法的な側面:医療保護入院の限界

ご本人の同意がない場合でも入院が必要となるケースとして「医療保護入院」がありますが、これは原則として、ご本人が精神疾患により判断能力が著しく低下しており、かつ、自身の病状によって自身を傷つけたり、他人に危害を加えたりする恐れがある場合など、厳格な要件を満たす場合に限られます。また、家族など特定の同意権者の同意が必要となります。

医療保護入院は、ご本人の意思に反して行われるものであり、その後の信頼関係に影響を与える可能性もあります。そのため、あくまで最終手段として、専門家(精神科医や保健所の精神保健担当者など)と十分に相談し、慎重に検討すべきものです。治療や支援を拒否しているというだけで、すぐに医療保護入院の対象となるわけではないことを理解しておく必要があります。

家族自身のセルフケアの重要性

ご家族が治療や支援を拒否している状況でのケアは、時間も労力もかかり、精神的に非常に疲弊しやすいものです。ご家族自身が倒れてしまっては、ご本人を支え続けることが難しくなります。

ご自身の心身の健康を守ることが、結果的にご家族への長期的なサポートに繋がります。ご自身のセルフケアを後回しにしないでください。

まとめ

ご家族がメンタル不調の治療や支援を拒否している状況は、ご家族にとって非常に困難でつらいものです。しかし、強制するのではなく、ご本人のペースに合わせて、信頼関係を築きながら関わっていくことが回復への糸口となる可能性があります。

すぐに状況が好転しなくても、焦らないことが大切です。ご本人への働きかけと並行して、家族自身が地域の保健所や精神保健福祉センター、相談支援事業所などの外部機関に積極的に相談し、専門的なアドバイスや情報を得ることが、状況を打開するための重要な鍵となります。また、訪問支援などの選択肢があることも知っておいてください。

そして何よりも、ご家族自身の心身の健康を守ることを忘れないでください。一人で抱え込まず、利用できるリソースを最大限に活用しながら、粘り強くサポートを続けていくことが大切です。