家族のメンタル不調が急変:もしもの時に備える具体的な対応ステップと連絡先
はじめに
ご家族のメンタル不調と長年向き合われている中で、状態が急変した場合の対応について不安を感じることは自然なことです。もしもの時が訪れた際に、慌てずに落ち着いて対応するためには、事前の準備と具体的な知識を持つことが非常に重要になります。
この記事では、ご家族のメンタル不調における「緊急時」とはどのような状況かをご説明し、緊急時に備えて事前に準備しておくべきこと、そして実際に緊急事態が発生した場合の具体的な対応ステップと、頼ることができる連絡先について詳しく解説いたします。
家族のメンタル不調における「緊急時」とは
ご家族のメンタル不調における「緊急時」とは、通常の状態から著しく逸脱し、本人や周囲の安全が脅かされる可能性のある状況を指します。具体的な例としては、以下のような状態が考えられます。
- 自傷行為や他害行為に及ぶ恐れがある、または実際に及んでいる
- 激しい興奮や混乱が見られ、会話が成り立たない
- 現実検討能力が著しく低下し、妄想や幻覚にとらわれている
- 意識が朦朧としている、または全く反応がない
- 全く飲食ができず、身体的な衰弱が著しい
- 危険な場所へ立ち入ろうとする、行方不明になる恐れがある
これらのサインに気づくことは、適切なタイミングで支援や医療に繋げるために不可欠です。日頃からご家族の状態を注意深く観察し、普段との違いを把握しておくことが大切になります。
緊急時に備えて事前に準備しておくべきこと
もしもの時に迅速かつ落ち着いて対応するためには、日頃からの備えが非常に重要です。以下の情報を整理し、すぐに取り出せるようにしておきましょう。
- かかりつけ医療機関の情報:
- 医療機関の名称、電話番号
- 主治医の氏名
- 診察券
- 時間外や休日の連絡方法、緊急時の対応体制(事前に確認しておきましょう)
- ご家族の病状に関する情報:
- 現在の診断名
- 現在服用している薬の種類と量(おくすり手帳やメモなど)
- アレルギーの有無
- 過去の主な症状や治療歴、入院歴
- 直近の症状の変化や困っていること
- 可能であれば、緊急時に伝えたい本人の意思(緊急時対応計画書など)
- 公的な相談窓口の情報:
- お住まいの地域の保健所の連絡先
- 精神保健福祉センターの連絡先
- 精神科救急情報センター(夜間・休日の精神医療相談窓口)の電話番号
- 信頼できる関係者の連絡先:
- 協力をお願いできる親族や友人の連絡先
- 民生委員や担当の精神保健福祉士、ケアマネジャーなどがいる場合はその連絡先
これらの情報をまとめて、ご自身だけでなく、他のご家族など関係者と共有しておくと、いざという時に役立ちます。
緊急時の具体的な対応ステップ
緊急事態が発生した場合、以下のステップで対応を検討します。安全確保を最優先に行動することが重要です。
ステップ1:自身の安全と家族の安全を確保する
まず、ご自身の身の安全を確保してください。興奮しているご家族に対して無理に近づいたり、刺激するような言動は避けるべきです。安全な距離を保ち、冷静さを保つよう努めます。次に、ご家族が自傷や他害に繋がりうる危険な物(刃物、薬物など)にアクセスできないよう、可能であれば安全な場所に移動させるか、危険物を取り除くことを検討します。
ステップ2:状況を落ち着いて判断する
何が起きているのか、ご家族の状況を落ち着いて観察します。 * 意識はあるか、ないか * 会話は可能か、不可能か * 具体的な言動や状態(興奮している、全く動かない、幻覚を見ているようだなど) * 身体的な異常(呼吸が苦しそう、痙攣しているなど)はあるか
この状況判断が、次に取るべき行動や連絡先に繋がります。
ステップ3:適切な相手への連絡
状況に応じて、最も適切と思われる機関に連絡します。事前に準備しておいた情報(病状、現在の状況、連絡先など)を手元に置いておくと、スムーズに伝えられます。
- かかりつけ医療機関・主治医:
- まず最初に連絡を試みるべき場所です。日中であれば外来に、夜間や休日であれば時間外窓口や救急外来の指示に従います。ご家族の状態、いつからその状態かなどを具体的に伝えます。受診の指示や、連携する精神科救急情報センターへの連絡を勧められることがあります。
- 精神科救急情報センター:
- かかりつけ医に連絡が取れない場合や、どこに相談すれば良いか分からない場合に利用します。24時間対応しており、精神科医など専門職が電話で相談に応じ、医療機関の案内などをしてくれます。状況を正確に伝えて指示を仰ぎます。
- 保健所・精神保健福祉センター:
- 日中の時間帯であれば、相談や助言を求めることができます。緊急性の高い状況で直ちに駆けつけてくれるわけではありませんが、今後の支援も含めて相談に乗ってもらえます。
- 警察(110番):
- ご家族が自傷他害の恐れが著しく高く、自身の安全や周囲の安全確保が困難な場合、あるいは説得に応じず医療機関への受診や搬送が困難な場合に連絡を検討します。警察官によって医療保護入院や措置入院に繋がるケースがありますが、これは本人の同意なしに医療機関へ搬送・入院させるための法的な手続きです。連絡する際は、精神疾患による状態であることを明確に伝え、可能な限り落ち着いた対応をお願いするように伝えます。
- 消防(救急車 119番):
- 意識障害、大量服薬、身体的な外傷など、生命に関わる身体的な危険性が高い場合に連絡します。精神的な興奮状態だけで身体的に危険がない場合は、精神科救急情報センターや警察への連絡が優先されることがあります。
警察や救急車を呼ぶ際の注意点
警察や救急車を呼ぶことは、ご家族にとってもケアする側にとっても大きな負担となり得ます。最後の手段として検討する場合でも、以下の点に留意すると良いでしょう。
- 病状であることを伝える: 精神疾患による症状であることを明確に伝え、犯罪者ではないことを強調します。
- 暴力的な対応を避けてもらう: 可能であれば、ご家族を刺激しないよう、冷静かつ穏やかな対応をお願いします。
- 搬送先の確認: 精神科救急に対応できる医療機関への搬送を希望することを伝えます。
対応後の自身のケア
緊急時の対応は、心身に大きな負担がかかります。対応後には、ご自身の疲労にもしっかりと向き合うことが大切です。可能であれば休息を取り、信頼できる友人や親族に話を聞いてもらったり、必要であれば改めて相談窓口に連絡して、ご自身の心身の状態についても相談してみてください。
まとめ
ご家族のメンタル不調が急変する状況は、誰にとっても非常に困難で不安なものです。しかし、事前にしっかりと準備し、もしもの時の対応ステップや頼れる連絡先を把握しておくことで、慌てず落ち着いて行動できる可能性が高まります。
最も重要なのは、一人で抱え込まないことです。緊急時はもちろん、日頃から地域の相談窓口や専門機関と繋がりを持ち、必要に応じて支援や助けを求めることをためらわないでください。この記事でご紹介した情報が、皆様のご家族のケアの一助となれば幸いです。