家族のメンタル不調が長期化:知っておきたい相続・財産管理の備えと専門家への相談ヒント
長期化する家族のメンタルケアと経済的な備えの重要性
ご家族のメンタル不調が長期化している状況で、日々のケアに加えて、将来の経済的なこと、特に相続や財産管理について不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。メンタル不調が続くと、ご本人の判断能力が低下したり、財産管理が難しくなったりするケースも考えられます。
このような状況では、ご家族がご本人の財産を守り、将来にわたって安心して生活を送れるよう、早めに備えを進めておくことが非常に重要になります。これは、ご家族自身の心理的な負担を軽減することにもつながります。
この記事では、長期化するご家族のメンタル不調を見据え、知っておきたい相続や財産管理に関する具体的な備えのポイントと、適切な専門家への相談方法について解説します。
長期化するケアがもたらす経済的課題
ご家族のメンタル不調が長期化すると、様々な経済的な課題が生じる可能性があります。医療費や薬代、療養生活にかかる費用はもちろんのこと、ご本人が働くことが難しくなれば収入が減少します。また、ご家族の誰かがケアのために仕事を調整したり離職したりすれば、世帯全体の収入に影響が出ます。
こうした日々の経済的な負担に加えて、ご本人の判断能力が低下した場合、預貯金の引き出しや公共料金の支払いといった日常的な財産管理、さらには不動産の管理や売却、相続手続きなどがご家族にとって大きな課題となることがあります。特に、ご本人の意思確認が難しくなった場合、法的な手続きが必要となり、時間や手間がかかることも少なくありません。
このような状況を乗り越えるためには、元気なうちから、あるいは可能な範囲で、将来の経済的な備えについて検討し、具体的な準備を進めておくことが大切です。
相続・財産管理に関する具体的な備えのポイント
長期化するご家族のケアを見据えた相続や財産管理の備えは、ご家族の状況によって取るべき方法が異なりますが、いくつかの一般的なポイントがあります。
1. 現状の把握と整理
まず最初に行うべきことは、ご家族全体の経済状況を正確に把握し、整理することです。 * 預貯金、株式、不動産などのプラスの財産 * 借入金などのマイナスの財産 * 保険の加入状況 * 年金やその他の収入の見込み * 将来必要となる可能性のある医療費や施設入所費用などの支出の見込み
これらの情報を一覧できる形にまとめておくと、現状の課題や将来に向けて検討すべき点が明確になります。ご本人だけでなく、ご家族全体の財産について話し合い、共有しておくことも重要です。
2. ご本人の意思の確認と文書化
ご本人の病状が比較的落ち着いており、判断能力がある程度保たれている時期であれば、ご本人の財産に関する考えや希望(誰に何を相続させたいか、どのような医療を受けたいかなど)を確認し、可能であれば文書として残しておくことを検討します。 遺言書は最も有効な手段ですが、専門家(弁護士、司法書士など)の助言を得ながら、法的に有効な形式で作成することが重要です。遺言書作成が難しい場合でも、エンディングノートなどに日頃の希望を書き留めておくことも、ご家族が判断する際の参考になります。
3. 将来の財産管理に備える制度の活用
ご本人の判断能力が将来的に低下する可能性に備え、財産管理を信頼できるご家族などが代わりに行えるようにするための公的な制度があります。
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成年後見制度:
- ご本人の判断能力が既に低下している場合に家庭裁判所に申し立てる「法定後見制度」と、ご本人が元気なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えてご家族などを後見人とする契約を結んでおく「任意後見制度」があります。
- 成年後見人は、ご本人の財産を管理し、身上に関する契約(介護サービスや施設入所の契約など)を行う権限を持ちます。
- 制度の利用には家庭裁判所の関与が必要となり、後見人には定期的な報告義務が生じます。専門家が後見人になる場合もあります。
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家族信託:
- ご本人が特定の財産(自宅や収益不動産など)を、信頼できるご家族に「信託」し、管理や運用、処分を任せる仕組みです。
- 柔軟な財産管理が可能であり、ご本人が亡くなった後の財産の承継先をあらかじめ決めておくこともできます。
- 契約内容を自由に設計できる反面、専門的な知識が必要となるため、弁護士や司法書士、信託銀行などの専門家への相談が不可欠です。
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任意代理契約:
- 特定の財産管理(例: 預貯金の管理や不動産の賃料管理など)を、ご本人が信頼できるご家族などに任せる契約です。
- 成年後見制度ほど包括的ではありませんが、特定の事項について柔軟な対応が可能となります。
これらの制度はそれぞれに特徴があり、ご家族の状況や希望に合った制度を選択することが重要です。
4. ご家族間での話し合いと情報共有
相続や財産管理に関する備えは、ご本人だけでなく、関係するご家族全員で話し合い、情報や考えを共有することが不可欠です。意見の相違が生じる可能性もありますが、将来の混乱を防ぐためにも、根気強く対話を重ねることが大切です。必要であれば、専門家や家族支援を行う団体の協力を得ることも有効です。
専門家への相談のヒント
相続や財産管理は専門的な知識が必要となる場面が多くあります。一人で悩まず、適切な専門家を頼ることが、スムーズな備えにつながります。
どのような専門家に相談できるか
- 弁護士: 法律全般の専門家。成年後見制度の申し立て、遺言書の作成・執行、家族信託、遺産分割協議など、幅広い相談に対応できます。
- 司法書士: 不動産登記や商業登記、供託、成年後見(申立書類作成や後見人)、家族信託に関する専門家です。簡易裁判所の管轄内の事件については弁護士と同様の業務を行える場合もあります。
- 税理士: 相続税や贈与税に関する専門家です。相続税対策や税務申告について相談できます。
- ファイナンシャルプランナー(FP): ライフプラン全体を見据えた資金計画や資産運用、保険、相続などについて総合的にアドバイスを提供します。具体的な法的手続きや税務申告は行えませんが、全体の整理や専門家への橋渡し役になります。
相談するタイミングと準備
ご本人の判断能力が比較的安定している時期に、任意後見制度や家族信託などについて相談を開始するのが理想的です。しかし、既に判断能力の低下が見られる場合でも、法定後見制度などの利用について相談することは可能です。
相談に行く際は、ご家族の財産状況をまとめたメモや、ご本人の病状に関する簡単な情報などを準備しておくと、専門家が状況を把握しやすくなります。
相談先の探し方
- お住まいの地域の弁護士会や司法書士会: 無料または低額での法律相談を実施している場合があります。
- 日本税理士会連合会や各地の税理士会: 税務相談に応じている場合があります。
- NPO法人 日本FP協会などのFP団体: FP検索サービスなどを利用できます。
- 市区町村の相談窓口: 法テラスや専門家による無料相談会を紹介している場合があります。
- 病院の医療ソーシャルワーカー: 利用できる公的制度などに関する情報提供や、関係機関への橋渡しを行ってくれることがあります。
複数の専門家の話を聞き、信頼できる専門家を見つけることも大切です。
まとめ
ご家族のメンタル不調が長期化する中で、相続や財産管理といった将来の経済的な備えは、避けて通れない課題となる可能性があります。現状を把握し、ご本人の意思を可能な範囲で確認・文書化すること、そして成年後見制度や家族信託などの制度について理解を深め、必要に応じて専門家を頼ることが、ご家族の安心につながります。
一人で抱え込まず、ご家族で話し合い、弁護士、司法書士、税理士、FPなどの専門家と連携しながら、一歩ずつ準備を進めていくことが、長期にわたるケアを乗り越える上での支えとなるでしょう。