長期化する家族のメンタルケア:自身の退職・休職を検討する際に考えるべきこと
長期にわたるご家族のメンタルケア、本当にお疲れ様です。責任あるお立場で仕事を続けながらのケアは、想像以上の負担を伴うことと存じます。ケアが数年に及び、ご自身の心身の疲労が蓄積される中で、「このまま仕事を続けられるのだろうか」「いっそ退職や休職をして、ケアに専念した方が良いのではないか」といった考えが頭をよぎることもあるかもしれません。
退職や休職は、ご自身のキャリアやご家族の生活に大きな影響を与える重要な決断です。安易に結論を出すのではなく、多角的な視点から慎重に検討することが求められます。この記事では、長期化するご家族のメンタルケアとご自身のキャリアとの間で、退職や休職という選択肢を検討する際に考えるべきこと、そして利用できる可能性のある制度や相談先について解説します。
自身の心身とキャリアへの影響を整理する
まず、現在の状況がご自身の心身やキャリアにどのような影響を与えているのかを冷静に整理してみましょう。
- 心身の健康状態: 睡眠不足、疲労感の慢性化、気分の落ち込み、体調不良など、ケアと仕事の両立によってご自身の健康が損なわれていないかを確認します。自身の健康が第一であるという視点を持つことが重要です。
- 仕事の状況: 現在の業務量や責任、職場の人間関係、仕事のやりがいなどが、ケアの負担とどのようにバランスしているかを評価します。管理職というお立場の場合、部下への配慮や責任範囲も大きいため、その点も含めて考えます。
- 職場環境と制度: 職場はご家族の状況についてどの程度理解を示しているでしょうか。会社の休暇制度(有給休暇、慶弔休暇、病気休暇など)、介護休業、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、テレワーク制度など、利用できる制度はありますでしょうか。これらの制度を最大限に活用できているかも確認します。
- 仕事が持つ意味: 仕事は収入を得る手段であると同時に、社会とのつながりや自己肯定感、気分転換の機会を提供してくれる場合もあります。仕事から離れることが、これらの側面で自身にどのような影響を与えるかを考えます。
退職・休職を検討する際の多角的な考慮事項
退職または休職を選択肢として真剣に検討する際は、以下の点を慎重に考慮する必要があります。
経済的な側面
最も現実的かつ重要な検討事項の一つです。
- 収入の変化: 退職すれば収入は途絶えます。休職の場合、会社の規定や加入している健康保険組合によっては、傷病手当金などが支給される場合がありますが、満額支給ではないことが一般的です。収入が減少または途絶した場合の家計への影響を具体的に試算します。
- 家計全体の収支: 現在の収入と支出、貯蓄額を確認します。退職または休職期間中の生活費、ご家族の医療費やケアにかかる費用などを賄えるだけの経済的な蓄えがあるか、または他の収入源を確保できるかを検討します。
- 公的支援の可能性: ご家族の状況やご自身の状況によっては、傷病手当金(ご自身が病気やケガで休職する場合)、失業給付(退職後に再就職を目指す場合)、ご家族に関する経済的支援(障害年金、自立支援医療、各種手当など)が利用できる場合があります。これらの制度について情報収集し、専門機関に相談してみましょう。
精神的な側面
仕事から離れることは、精神的にも様々な影響を与える可能性があります。
- ケアへの専念: ケアに専念することで、ご家族と向き合う時間が増え、よりきめ細やかなサポートが可能になるかもしれません。一方で、ケア以外の時間や社会との接点が減り、孤立感や閉塞感を覚える可能性も考えられます。
- 自身の役割とアイデンティティ: 長年仕事を通じて培ってきた自身の役割やアイデンティティが、仕事から離れることで揺らぐ可能性があります。仕事が気分転換やストレス解消の場であった場合、その代替を見つける必要があります。
- 新たなストレス: 経済的な不安や、24時間体制でのケアによる新たな疲労、ご家族との距離感の変化など、仕事をしている時にはなかったストレスが生じる可能性もあります。
家族への影響
ご自身の働き方の変化は、ご家族にも影響を与えます。
- ケア体制の変化: ご自身がケアに充てられる時間が増えることで、ケア体制はどのように変わるでしょうか。ご家族はそれをどのように受け止めるでしょうか。ご家族からの期待が高まる可能性もあれば、過剰な干渉と感じられる可能性もあります。
- 家族内のバランス: ご自身の役割が変わることで、ご家族間の役割分担や関係性に変化が生じます。他のご家族がいる場合、その方々との連携や調整がより重要になります。
- コミュニケーション: ご自身の考えや懸念をご家族に伝え、話し合う機会を持つことも大切です。ただし、ご家族の病状や状況によっては、十分に話し合うことが難しい場合もあります。
キャリアの今後
退職や休職は、その後のキャリアに影響します。
- 休職からの復帰: 休職の場合、復帰を前提とするのであれば、復帰に向けた会社のサポート体制や、ご家族の状況が復帰可能な状態になる見込みなどを考慮する必要があります。
- 退職後の再就職: 退職した場合、将来的に再就職を考えているのであれば、キャリアのブランクが再就職に与える影響や、ご自身の年齢、これまでの経験が活かせるかなどを検討します。
- ライフプラン: ご自身の人生における仕事の位置づけや、今後のライフプラン(リタイアメント、セカンドキャリアなど)と、退職・休職という選択がどのように整合するかを考えます。
退職・休職以外の選択肢も検討する
退職や休職は最終手段として考えるべきかもしれません。その前に、現在の状況を改善するために、他にどのような選択肢があるかを模索することが大切です。
- 職場で利用できる制度の最大限の活用: 会社の産業医や人事担当者に相談し、利用可能な休暇制度や勤務形態の変更(短時間勤務、フレックス、テレワークなど)について再確認し、積極的に活用できないかを検討します。
- ケア負担を軽減するための外部サービスの利用: ご家族の同意や病状にもよりますが、デイケア、訪問看護、相談支援事業所(特定相談支援事業所など)、訪問介護、ショートステイなど、利用できる公的・民間のサービスを洗い出し、積極的に活用して自身の負担を軽減することを考えます。ケアマネジャーや精神保健福祉士に相談することで、利用できるサービスが見つかることもあります。
- 家族内での役割分担の見直し: 他にご家族がいる場合、それぞれの状況や負担能力を確認し、ケアの役割分担について話し合う機会を持ちます。すべての負担をご自身で抱え込まない工夫が必要です。
- 職場への相談: 信頼できる上司や同僚、人事部門などに、ご自身の状況や必要な配慮について相談してみることも有効です。管理職というお立場から、相談することにためらいを感じるかもしれませんが、状況を共有することで職場の理解やサポートを得られる可能性があります。
専門家や相談窓口を活用する
一人で抱え込まず、様々な専門家や相談窓口に相談することが、状況を整理し、適切な判断を下す上で非常に役立ちます。
- 会社の産業医・健康相談窓口: ご自身の心身の状況や、仕事とケアの両立に関する悩みについて相談できます。
- ご家族の医療機関: 医師や看護師に加えて、精神保健福祉士や医療ソーシャルワーカーが配置されていることがあります。これらの専門家は、ご家族の病状に応じた療養生活のアドバイスに加え、利用できる医療・福祉サービスや経済的な支援制度に関する情報を提供してくれます。
- 自治体の相談窓口: 精神保健福祉センターや保健所、市区町村の福祉課などでは、メンタルヘルスに関する専門的な相談を受け付けています。ご家族だけでなく、ケアをするご家族自身の相談も可能です。
- キャリアコンサルタント: ご自身のキャリアに関する悩みや、今後の働き方について専門的なアドバイスを得られます。
- ファイナンシャルプランナー: 退職や休職に伴う家計の変化について、専門的な視点からシミュレーションやアドバイスを受けることができます。
まとめ
長期化するご家族のメンタルケアの中で、ご自身のキャリア、特に退職や休職という選択が頭をよぎることは、ケア提供者として大きな負担を抱えている証でもあります。この決断は、ご自身の人生だけでなく、ご家族の生活にも深く関わるため、安易に下すべきではありません。
まずは、現在の状況がご自身の心身やキャリアに与える影響を冷静に把握し、経済的、精神的、家族への影響、そしてご自身のキャリアの今後といった多角的な視点から、退職・休職を選択した場合のメリットとデメリットを慎重に検討してください。
同時に、現在の職場で利用できる制度の確認・活用、外部サービスの利用拡大、家族内での役割分担の見直しなど、退職・休職以外の方法で状況を改善できないかという視点も持つことが重要です。
一人で悩まず、会社の産業医、ご家族の医療機関の専門職、自治体の相談窓口など、様々な専門家や相談先を積極的に活用してください。客観的な意見や専門的な情報、利用できる制度に関する知識を得ることが、より良い判断を下すための助けとなります。
ご自身とご家族にとって最も良い選択をするために、焦らず、着実に、必要な情報を集め、様々な可能性を検討していくことが大切です。ご自身の心身の健康も守りながら、この困難な時期を乗り越えていくことを願っております。