家族のメンタル不調長期化:ケアする側自身の病気や急変に備える具体的なヒント
はじめに
ご家族のメンタル不調と長年向き合い、日々ケアを続けていらっしゃる皆様におかれましては、心身ともに大きな負担を抱えていらっしゃるかと存じます。そうした状況下で、ご自身の健康を維持することの重要性は言うまでもありませんが、万が一、ケアをされているご自身が病気などで倒れてしまったり、急な入院が必要になったりした場合に、ご家族のケアがどうなるのかという不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
もしもの事態を想像することは容易ではなく、また心に負担をかけることかもしれませんが、事前に適切な準備をしておくことは、ご自身の不安を軽減し、同時にご家族の安心にも繋がる大切なステップです。この記事では、長期化するご家族のメンタルケアにおいて、ケアをする側のご自身の病気や急変に備えるための具体的なヒントをご紹介いたします。
もしもの事態に備える必要性
ご家族のケアが長期にわたるほど、ケアを担うご自身の心身への負担は蓄積されやすくなります。年齢を重ねるにつれて、自身の健康リスクも高まる可能性があります。もし、ご自身が突然ケアを継続できなくなった場合、ご家族が誰に助けを求めれば良いのか分からなくなったり、必要な医療や生活支援サービスが途絶えてしまったりするリスクが考えられます。
こうした状況を避けるためには、ご自身がケアできなくなった場合でも、ご家族が必要な支援を受け続けられるような仕組みを、元気なうちに考えておくことが重要です。これはご自身のためでもあり、何より大切なご家族のためでもあります。
具体的な備え(1):必要な情報の整理と共有
万が一の際に、他の誰かがご家族のケアを引き継いだり、必要な支援を手配したりするためには、正確な情報が不可欠です。以下の情報を整理し、信頼できる人や専門家に共有しておくと良いでしょう。
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ご家族に関する情報:
- 診断名、現在の病状、治療経過
- かかりつけの医療機関(病院名、医師名、連絡先)
- 内服している薬の種類、量、服用時間、処方医
- 利用している福祉サービス(デイケア、訪問看護、相談支援事業所など)とその担当者、連絡先
- 障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳などの情報
- 緊急時の連絡先(親族、友人など)
- ご家族の好きなこと、苦手なこと、注意が必要なことなど、個別のケアで大切な情報
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ご自身に関する情報:
- ご自身の氏名、生年月日、住所、連絡先
- ご自身の健康状態(持病、アレルギーなど)
- かかりつけの医療機関、内服薬
- 健康保険証、お薬手帳の保管場所
- ご家族に関する上記の情報を保管している場所
これらの情報を一箇所にまとめ、分かりやすい形で整理しておくと良いでしょう。例えば、ノートに手書きする、PCで一覧表を作成する、エンディングノートの一部として記述するなど、様々な方法があります。そして、この情報の存在と保管場所を、信頼できるご親族や友人、あるいは後述する専門家などに伝えておくことが重要です。
具体的な備え(2):経済的・法的な準備
ご家族が安心して生活を続けられるよう、経済的および法的な備えも検討しておく必要があります。
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経済的な整理:
- ご家族の生活費、医療費、ケアにかかる費用を賄うための資金計画を確認します。
- ご自身とご家族の預貯金、保険、年金などの情報を整理し、保管場所を明確にしておきます。
- 万が一の際に、ご家族が一時的に生活資金を引き出せるようにしておく、あるいは信頼できる人に依頼できるよう準備することも考えられます。
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法的な検討:
- ご自身が判断能力を失った場合に、ご家族の財産管理や契約手続きなどを行うための備えとして、「任意後見制度」の利用を検討することができます。ご自身が元気なうちに、将来的に後見人になってほしい人(任意後見人)と契約を結んでおく制度です。
- ご自身の財産について、信頼できる人に管理や手続きを委任する「財産管理等委任契約」も選択肢の一つです。
- ご自身の死後に備え、遺言書を作成することも重要です。特に、ご家族がご自身の死後も経済的に困窮しないよう配慮する内容や、ご家族のケアをお願いしたい人への希望などを記載することができます。
- これらの法的な手続きについては、司法書士や弁護士、信託銀行などの専門家にご相談されることをお勧めします。ご家族の状況やご自身の希望に合わせた最適な方法を提案してもらえます。
具体的な備え(3):緊急時の連絡網と役割分担
もしもの時に速やかに対応してもらうために、緊急連絡先を明確にし、可能な範囲で役割分担について話し合っておくことが有効です。
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緊急連絡先リストの作成:
- ご親族(配偶者、お子様、ご兄弟など)の連絡先。
- ご家族のメンタル不調について理解があり、相談に乗ってくれる友人。
- 職場の上司や同僚(必要に応じて)。
- 地域の相談窓口(地域包括支援センター、精神保健福祉センター、相談支援事業所など)。
- かかりつけ医、精神科訪問看護ステーションなど、利用中のサービス提供者。
- 緊急時に連絡すべき人たちのリストを作成し、誰が見ても分かる場所に保管しておきます。
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役割分担の検討:
- 可能であれば、信頼できるご親族などと、万が一の際に誰がどのような役割を担うか(例:病院への連絡、ご家族への声かけ、一時的な見守り、サービスへの連絡など)について、事前に話し合っておくとスムーズです。
- すぐに協力を得られる親族がいない場合でも、前述の地域支援機関に事前に相談しておくことで、緊急時の対応についてアドバイスを得たり、いざという時にサポートをお願いしたりできる場合があります。
具体的な備え(4):自身の健康管理の継続
最も基本的で重要な備えは、ケアをする側であるご自身の健康を良好に保つことです。
- 定期的な健康診断:
- 年に一度は健康診断や人間ドックを受診し、ご自身の健康状態を把握することが大切です。早期に体の異変に気づくことで、重症化を防ぐことができます。
- 体の不調に気づいたら:
- 無理をせず、かかりつけ医や専門医に相談してください。「これくらいなら大丈夫」と我慢せず、早めに対処することが重要です。
- セルフケアの実践:
- 十分な睡眠をとる、バランスの取れた食事を心がける、適度な運動を取り入れる、趣味やリフレッシュの時間を確保するなど、ご自身の心身の健康を保つためのセルフケアを意識して実践してください。
- ケア疲れを感じた際には、一人で抱え込まず、信頼できる人や専門機関に相談することも、健康維持のための大切なセルフケアです。
まとめ
ご家族のメンタル不調が長期化する中で、ご自身の病気や急変に備えることは、簡単ではないかもしれませんが、ご自身とご家族の将来的な安心のために非常に価値のある取り組みです。必要な情報の整理、経済的・法的な準備、緊急連絡網の構築、そして自身の健康管理の継続といった具体的なステップは、万が一の事態が発生した場合でも、ご家族が必要なケアから孤立することを防ぐ助けとなります。
これらの備えは、決して悲観的な考えからではなく、未来への前向きな行動として捉えていただければ幸いです。一人で全ての準備を抱え込む必要はありません。ご親族、地域の相談窓口、弁護士や司法書士などの専門家、あるいはご家族が利用されているサービスの担当者など、様々な人や機関がサポートを提供しています。どうか、こうした外部のリソースも活用しながら、少しずつでも準備を進めていくことをお勧めいたします。